ダニ媒介性脳炎とワクチンの話

我が国ではあまり知られていませんが、「ダニ媒介性脳炎」という病気があります。
ダニ媒介性脳炎は、ウィルスを保有するマダニに刺咬されることによって発症する疾患です。
ウィルスを持っていないマダニの刺咬では発症しないなどの点は、蚊によるマラリアの感染にも通じるものがあります。ダニ媒介脳炎は、マラリアと同様に、流行地域が存在します。
ダニ媒介性脳炎の流行地域は、ドイツバイエルン地方およびオーストリアの森林地帯、中央ヨーロッパからバルト三国、ロシア主要部、シベリア、極東ロシアに至る地域で流行しています。
ダニ媒介性脳炎ウィルスを保有するマダニは、各地域とも草原や森林地帯に生息し、都市部などにはほとんど生息していません。
ダニ媒介性脳炎の患者発生数は、上記地域で年間6千から1万人程度。
潜伏期間は、ダニ刺咬後7-14日。高熱、悪寒、筋肉痛などのインフルエンザに似た症状が出現します。3-4日程度後、30-50%の例で、頭痛、悪心、痙攣、眩暈、知覚異常などの髄膜脳炎を生じます。致死率は、髄膜脳炎を発症した中の2%程度。しかし、ロシア春夏型の脳炎では、致死率は20%に達すると言われています。
また、死に至らなくても、髄膜脳炎による後遺症が中枢神経系や末梢神経系に残る事も多いため、警戒が必要です。(髄膜脳炎発症後、何らかの副作用が残る率は35から60%というデータもあります。これは極めて高い確率と考えます。)

実は、このダニ媒介性脳炎、わが国でも発生が報告されています。初発症は、1993年。その後、2016年に1例、2017年に2例が報告されたため、調査したところ、北海道一部地域でダニ媒介性脳炎ウィルスを保有したマダニの存在が確認されています。
2017年現在、北海道もダニ媒介性脳炎流行地域と考える必要があると考えます。

ダニ媒介性脳炎を防ぐために先ず大切な事は、流行地域においては、無用に草原や森林に立ち入らない事。トレッキングツアーや乗馬などの際には、長そで長ズボンなど露出の少ない服装として、ダニ刺咬の可能性を減らす事が重要です。

また、ダニ媒介性脳炎の極めて有効な予防手段にワクチンがあります。
ワクチンは、通常3回を、初回、1か月後、12か月後の3回接種します。
致死率の高いロシア春夏脳炎の予防や、渡航時期までの猶予が少ない場合には、3週間で3回接種する方法もあります。
ダニ媒介性脳炎ワクチンは、日本国内での生産が行われていないため、すべて輸入ワクチンになります。

昨今の東欧・バルト3国・ロシアの旅行ブームに加えて、ロシアワールドカップなどでロシアを訪れる方も増えると思われます。その際には、ダニ媒介性脳炎のワクチンを含む予防を考えてみても良いのではないでしょうか。

海外渡航ワクチン ダニ媒介性脳炎ワクチン

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