ボランティアに行かれる方へ 予防接種について
東日本大震災の被災地ボランティアの方々へ ~予防接種など注意したい事~
東日本大震災から2ヶ月以上経過し、日本は社会全体が落ち着きを取り戻しつつあります。我々日本人の特性かもしれませんが、最早震災は過去のこととして忘れ去られつつある様な感があります。特にテレビなどの報道を見るとその傾向を強く感じます。しかし被災地は広範囲に及んでおり、復興のためのマンパワーは圧倒的に不足しています。ボランティアの重要性は決して薄れることはありません。
被災地域では、ハエ、蚊の大量発生など衛生状態の低下が懸念されます。特にこれからの季節では、ノロウィルスなどの消化器感染症に注意する必要があります。生ものの摂取をなるべく避ける、手洗いの徹底などの対策が必要です。週末ボランティアなど短期間行かれる方は日常との切り替えが必要になってきます。ノロウィルスとともに発生が懸念されるのがA型肝炎です。A型肝炎はノロウィルスと同様の対処に加えてワクチンで予防が可能です。
先日、宮城県のボランティアの方に破傷風の感染が確認されたとの事です。瓦礫の撤去などの作業をされる方は破傷風の予防接種をする事を強くお勧めします。破傷風は免疫がない状態で感染すると生命の危険もあり得ます。これは、破傷風ワクチンで防ぐ事が可能です。破傷風については以前のコラムをご参照ください。当クリニックでは復興支援の一環として、ボランティアに行かれる方に破傷風の予防接種を無料で行っております。
あと破傷風ワクチンで防げるのは破傷風感染による生命のリスクだけです。外傷時に医療機関の受診をしなくて良いという訳ではありません。外傷時に傷口が土などで汚染されている場合には細菌感染のリスクもあります。破傷風のワクチンでは当然の事ながら細菌感染は予防できません。細菌感染に対しては、先ず傷口を清浄な水で洗い流し、その後抗生物質の内服が必要になります。いずれにしても釘を踏み抜いたりした時や汚染された物による外傷時は可能な限り早めの医療機関受診が必要です。
屋外作業時にもうひとつ気をつけたいのがツツガムシ病です。主に屋外作業時に手足などの皮膚からツツガムシという微小生物が皮膚内に進入することで発症します。対策としてはツツガムシによる咬傷を防止する事が最も有効な手段です。ツツガムシ病の予防に加えて外傷の予防という観点でも作業時の服装は長袖が基本です。肌の露出部分にはダニよけの外用剤を塗ります。これから暑い季節になりますが、長袖の作業着を準備するようにしてください。脱いだ上着や手ぬぐいを床や地面に置かないこと、一日の終わりには入浴し、可能なら衣服も必ず洗濯する事が重要です。それでもツツガムシ病になった場合は医療機関でテトラサイクリンなどの抗生剤による治療が必要となります。
被災地では、インフルエンザや麻疹(はしか)の流行も報告されています。これらはいずれもワクチンで高い確率で予防が可能です。ボランティアを行う方がこれらの疾患に感染する事も問題ですが、ボランティアが病原菌を持ち込む形で現地にインフルエンザや麻疹が流行するのは避けなければなりません。体力の落ちている人にとってはこれらの感染が生命にかかわる事もあります。ボランティアに行く際はワクチンで予防する事も重要ですが、ボランティアに行く直前に発症した可能性がある場合は、ボランティア活動を中止する決断も必要です。自分のため、被災地の方々のために勇気を持って活動中止の決断をするのも尊いボランティアだと考えます。
麻疹ほどの大流行はしませんが、風疹、水痘(みずぼうそう)、ムンプス(おたふくかぜ)、百日咳も同様にワクチンによる予防が可能です。
他にも気管支炎や肺炎も流行傾向にあります。現場でのボランティアの際に防塵マスクを着けて作業をする事は基本ですが、作業後も可能であれば通常のマスクをしている事をお勧めします。被災地では土埃など粉塵の空気中の濃度が高く、呼吸器系に負担が罹り易くなっています。石巻赤十字病院によると病原微生物を含む粉塵によると思われる肺炎がヘドロや瓦礫を手作業で片付けた人たちを中心に増加した影響で、肺炎の発生率は震災前に比べて震災後は3~5倍になっているとの事です。マスクの使用は粉塵の吸入量を減らし、気管支炎、肺炎はもとより喘息などの呼吸器疾患の発生をも予防する事が可能です。被災地ではまだまだ物流が滞っており、加えてコンビニなどの小売店舗がまだまだ再建できておらず、東京などでは簡単に手に入る通常のマスクなどの入手が困難な事もあります。現地入りの際はマスクをたくさん持って行くと良いかもしれません。
被災地の蚊の発生で懸念されるのが日本脳炎です。今回の震災後に流行が認められるかは未知数ですが、状況によっては対策が必要となってくると思われます。
あとワクチンで防げるものではないのですが、被災後にネズミの発生が増えた場合はペストの流行が起こる可能性があります。ペストは以前には黒死病と言われて14世紀にはヨーロッパの人口の30%を死に至らしめた病気です。現在はさすがにその様な事はないのですが、治療が遅れると生命に関わる病気である事には変わりありません。シプロキサンという抗生剤の予防内服が効果的との研究もあります。外傷時や気管支炎などの対処と兼ねて、入手できれば抗生剤を用意して現地に赴くのもひとつの方法かと思います。
スマトラ沖の地震の際には、震災後マラリアや黄熱病が増加したとの報告もあります。幸い日本ではこれらの病気が流行する事は考えがたいため、心配する必要はないと考えます。
また、ヘドロや瓦礫の処理の際に、肺炎や気管支炎のリスクのみ強調されますが、粉塵によるアレルギー性鼻炎や結膜炎、皮膚の湿疹、アレルギー性皮膚炎も問題となっています。花粉症などのアレルギーを持つ人や肌が弱い人はあらかじめ薬などを用意する必要があるかもしれません。
屋外での作業の場合は、紫外線に対する備えも重要です。驚くほど日焼けをします。紫外線は上記の粉塵による皮膚炎を悪化させます。SPF値が高く、肌への負担の少ない日焼け止めを用意すると良いでしょう。
今まで書いたワクチン(予防接種)の一覧を下記にまとめます。
ランクA:最優先その1:主に現場作業の方は必須です。
① 破傷風
ランクA:最優先その2:特に事務作業、医療、炊き出しなどのボランティアの方は破傷風より重要と考えます。
① 麻疹(はしか)
② A型肝炎
③ インフルエンザ
ランクB:優先:被災地での活動が長期にわたるもしくは感染の既往がない場合どは接種しておきたい。
① 風疹
② 水痘(みずぼうそう)
③ おたふくかぜ(ムンプス)
④ 百日咳
ランクC:状況により接種が必要と考えます。
①日本脳炎
当、代官山パークサイドクリニックでは、上記のワクチンのご用命に加えて、医療相談全般や薬の用意など、何でも相談に乗ります。お気軽にご相談ください。
もちろん破傷風ワクチンのボランティア向け無料接種もがんばって続けるつもりです。よろしくお願いします。
ボランティア作業は肉体的にも精神的にもタフさが必要です。タフさは万全の準備から生まれます。写真は石巻市と東松島市です。日常からは想像も出来ない状況がそこにはあります。心して向かいましょう。我々は、決して負けません。